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広重の雪景色「肥前 壱岐志作」作品

2010-12-08

浮世絵の風景画で雪景色を描いた作品は多くありますが、広重の描いた雪景色は格別の美しさで知られています。

「六十余州名所図会」(嘉永6年7月~安政3年9月)は、広重が57歳から60歳にかけて制作した全69図に目録1枚の70枚揃いの大判錦絵です。全国の8街道の69の名所を、西洋画の遠近法を駆使しながら風景画では難しいとされる縦長の構図で壮麗に描いており、これらのほとんどの作品は、各地を旅することなく江戸にある種本と呼ばれる旅のガイドブック的な参考書を参照しながら制作したと言われています。種本に描かれた名所地の風景に、天候・四季・時刻などを取り込み原画よりリアルな空間表現と抒情性豊かな作品に仕上げました。

その中で私たちの肥前国を描いた作品が3図ありますが、「肥前 壱岐志作」(1853(嘉永6)年)には不思議に感じられる点がいくつかあると指摘されています。まず「志作」という地名は壱岐には存在せず、松浦市志佐町であると言われています。広重は葛飾北斎の「北斎漫画」七編の「壱岐志作」を参考に描いたため、誤りが生じたと推測されています。当時の風景と重ねてみると、手前の山麓付近が志作村、手前の湾が伊万里湾、壱岐水道を越えて遠くに見えるのが壱岐島で地平線は日本海へと続いています。そして江戸時代から滅多に積雪する地域ではない温暖な気候の地に雪景色を合わせていると解説説明されています。しかし、いろいろ解説があっても、しんしんと降る雪の静寂な情景を見事に描いている名画です。

1291783019_img489広重 「六十余州名所図会 肥前 壱岐志作」

1291783019_img910-2-1北斎 「北斎漫画」七編 「壱岐志作」